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第5話 青森檜葉

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津軽・下北半島の厳しい自然の中で繁殖する生命力

 檜葉は日本原産の木であり、生命力の強い木である。学名としては、ヒノキ科アスナロ属の木であるが、その分布範囲は北は北海道から、南は九州大隅半島に至るまで、国内のほとんどの地域に見られる。古くから耐久性の強い木として社寺仏閣などの建築材として重宝されたのは北方系の檜葉材で、南方系翌檜に対して材の素性がよく、ヒノキアスナロとも呼ばれている。翌檜は、“ヒノキに明日なろう”とする樹であるとか、ヒノキより葉が厚いことから“厚葉檜”、“貴檜”などの呼び名が転化したものであるといわれている。地域によっても数多くの呼び名があるようだ。ヒノキアスナロを指す方言も、一説によると40種類くらいあり、“檜葉”と統一されたのは、明治になってからとされる。
 その檜葉は、95%くらいが、今では全国各地の国有林にあり、天然木である。そのうち80%もの資源が青森県内に蓄積されている。この量は100㎡(約30坪)の住宅に木材を使用したとして戸数34万戸に相当する。天然檜葉の生長率はきわめて低く、年1%の天然更新と仮定しても、それでも毎年、約10万㎡の檜葉材、それも樹齢200年以上の天然青森檜葉材が供給できる計算になる。青森県がいかに檜葉大国であるかを示すデータである。
 なぜ、これほど青森県に良質の檜葉が多く分布しているのか。その大きな理由に、青森県の厳しい自然環境や、周囲を海(日本海、津軽海峡、平館海峡、太平洋)に囲まれた地理的条件があると考えられる。県内低地の平均気温は10℃、年間降雨量1400mmといわれるが、これはあくまでも平均を示す気象データであり、各海流と津軽、下北半島の複雑な地形がもたらす各地のデータは、さらに厳しく多様である。津軽半島の日本海側は対馬海流、東の太平洋側は親潮寒流、北は北海道に相対し、津軽海峡となる。これらの海流の影響で冬期はシベリア高気圧による北西季節風が吹く。その結果、津軽、下北、陸奥湾に面した地域は、連日の雪となる。逆に太平洋側に面した下北半島は降雪の少ない日となる。夏期はオホーツク海高気圧による青森独特のやませが吹き込み、下北側は曇天冷涼な日が続く。南部藩時代から続く農作物の冷害は、このやませに起因する。青森檜葉は、こうした厳しく複雑な気候風土の中で耐え、生長する。いいかえるなら、檜葉は雨や雪、霧などの空中湿度の高い厳しい環境を好む樹ともいわれ、そうした中で生長し、雪の中で繁殖をする異常な生命力を秘めた木ともいわれる。

多様な多種植生と群生する檜葉林の生態と松川恭佐の教え

 檜葉はよく、陰樹であるといわれる。特に日陰を好むというわけではないらしいが、他の樹木(?、水楢、橡などの広葉樹、杉、松、?などの針葉樹類)との混生、共存を図ることになる。私達が訪れた津軽、下北半島の檜葉林は、ほとんどがこうした他の植生との混生林である。青森営林局(東北森林管理局青森分局)の分類によると、その群系を大きく4つに分けて示している。第1のグループは、温暖帯性の平地、中低地帯の檜葉、樅、赤松、小楢、栗等との群落である。第2は温帯性中山地帯の檜葉、水楢、?、杉等の群落で、最も多く見られる。第3は亜寒帯、高山地帯の檜葉、米栂、岳樺等の群落。第4は寒帯性高山地帯の檜葉、這松、榛の木、石楠花等の群落である。青森県内では、この4つの植生分布は、海岸沿いの海抜0m地帯から、津軽、下北半島の比較的高い700~800m級の山までの高度分布となっている。かつては、低地から里山、そして高山まで檜葉は県内のいたるところに分布していたというが、現在はその数は、かなり減少している。

 東北森林管理局青森分局を訪れ、森林整備第二部長の笹沼修氏に話を聞くことができた。青森県内の檜葉材は、ほとんどが国有林のものとなっている。檜葉の伐採は、ここ10年近くは年平均10~15万㎡の伐採量であったが、昭和初期頃から、特に大戦の前後は建築材料として、造船用材として、30万㎡を超える伐採量(昭和18年の37.8万㎡が最大)続いた。現在はおおむね5~6万㎡となっており、今後も青森檜葉の資源保護のためにその量を維持していくという。
 檜葉はその生長量が大変少ない樹である。例えば、檜葉の伐採期と定めている目通りで直径70cm前後の檜葉になるには、250~300年くらいかかるらしい。これが杉だと約1/3の80~100年で達する。こうした檜葉の遅生長率を評して、青森県内の檜葉林を全て皆伐して杉に植え替えてしまう動きが過去にあったこうした檜葉を蔑視した戦後の風潮に大反対したのが、青森県内の近代檜葉施業の育ての親ともいわれる松川恭佐氏である。松川翁は、檜葉は生長が遅いが、檜葉が生えている自然を人工的にコントロールすることで、杉や檜に劣らない経済林にすることができるとし、檜葉を皆伐から救ったのだ。私達は、松川翁が確立を図った、檜葉の天然林の施業実験林を下北半島の大畑で探訪することができた。
 

 

   

 

 

 


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